清貧ではなく清富を目指す

最低賃金 ミライ科

日本人の勝算

デービッド アトキンソン氏の『日本人の勝算』を読みました。

要約すると、

  • 少子化・高齢化が進む人口減の日本では、一人あたりの生産性を高める必要がある。
  • 「いいものをより安く」のLow road capitalismから、「よりいいものをより高く」のHigh road capitalism(高生産性・高所得資本主義)へ移行すべし。
  • そのために企業の規模拡大を促す、統合促進政策を実施。
  • 制度だけでなく、最低賃金を「徐々に」引き上げることで、最低賃金では耐えられない企業の退出を促し、企業規模による高生産性を実現する。
  • また内需で余る分を輸出に振り向けることによる生産性向上を進める。
  • そして人材育成に投資することを強制する。

といったあたりでしょうか。

生産性と効率性の混同

生産性の議論をする際に、効率性と混同していることがよくあるので、ここで整理しておきます。
たとえば労働生産性とは、分子に労働による成果(付加価値)をとり、分母に労働投入量をとります。
一般的に「生産性を高める」と言うと、同じ成果に対して、分母の「労働投入量」をどれだけ減らせるかという議論になりがちです。しかしこれは効率を上げるというだけの、片方の議論だけでしかありません。
今の日本で特に重要なのは、同じ労働投入量で、いかに分子の付加価値を高めるかの視点です。いかに高く売れる製品やサービスを提供するか、国内需要が減って余剰となった設備を稼働させて、海外への販売を増やすか、といった議論です。
「いいものをより安く」は前者の議論、「よりいいものをより高く」が後者の議論と考えれば良いでしょう。

最低賃金

最低賃金を引き上げると失業率が増すという反論が出そうだが、そうならないことをファクトから説明しています。

特に日本のように人手不足が深刻となっている国では、雇用を確保することが第一義となるため、より高い給与の企業へと人材はシフトし、適正な給与を支払えない企業が退出するだけであるようです。
これと似たようなデータで、興味深い記事がありました。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00067/090400011/

分布を見ると、愛媛県の最頻値は800~809円であり、分布の山が最低賃金よりも高いことが分かります。一方、青森県の最頻値は最低賃金ギリギリの730~739円を指しています。

最低賃金よりも高い時間給が出る会社で働けるならば、大勢の人がその選択肢を取るでしょう。そうではなく、分布の山が最低賃金に集まるということは、経営者に「他の会社より良い条件を出さないと人が集まらない」というプレッシャーがあまりないということです。労働市場が競争市場になっていないと、こうしたことが起きます。

経営者に対するこうしたプレッシャーを、日本全国で同じように推進する必要があるというわけです。

その際に、韓国のように急激に引き上げるのではなく、継続的に適正なレベルで引き上げることの必要性についても説明しています。

日本人のメンタリティ

貧乏は清く、金持ちは汚い。
この二元論に陥りがちです。
でも、本当にそうでしょうか?
お金を稼ぐことは、汚いことなのでしょうか。
『清い⇔汚い』と『金持ち⇔貧乏』は、異なる二軸です。
ですから、貧乏で汚く、金持ちで清いというケースも存在するわけです。

これは、中小企業は健気で、大企業は横暴だという、ステレオタイプな見方にも似ています。
中小企業にもブラック企業は存在するわけで、公明正大に事業を運営している大企業も存在しています。
もしかすると、コンプライアンスが厳しくなった現代だからこそ、厳しいチェックの仕組みが確立している大企業のほうが、フェアなビジネスを進めざるを得なくなっているとも考えられます。

こうした日本人の「古い感性」を取り外し、高い付加価値を出して生産性を向上することで、しっかりとお金をかせぐことが、これからの日本を救うのだと強く感じた本でした。

タイトルとURLをコピーしました