2020年度では民間試験を合否に使わない
3月10日は、東大の合格発表が行われていました。
そのいっぽうで、2020年度に始まる大学入試改革に関して、東大が民間試験の結果を合否判定に使わないという発表をしました。
東大 合否判定に使わず 新テストの英語民間試験
東京大学は10日、2020年度に始まる大学入学共通テストで導入される英語の民間資格・検定試験について、合否判定に使わない方針を決めた。制度の移行期間として23年度まで併せて実施されるマークシート式試験と、2次試験の成績で判定する。民間試験の活用を巡っては公平性などに課題があると指摘されており、他大学の判断に影響を与えそうだ。
10日、記者会見した福田裕穂副学長が明らかにした。受験生が民間試験を受けることは必須とし、その成績は入学後の能力の伸びを調べるデータなどに活用するという。
英検やTOEICなどの民間試験の活用は「聞く・読む・話す・書く」の4技能をみるのが目的。国立大学協会は昨年11月、一般入試の全受験生に民間試験とマークシート式の両方を課すことを決めた。今月8日には、民間試験の成績の活用法について(1)一定水準を満たしていることを各大学の出願資格とする(2)マークシート式試験の得点に加点する--のいずれか、または両方を組み合わせることを基本とするガイドライン案を公表した。
しかし用途や形式が異なる複数の試験の成績を比較するのは困難との見方が根強く、居住地や家庭の経済状況などで受験機会に差が出る懸念も指摘されている。東大の五神真学長は同協会の総会で「4技能を入学までに高めてほしいというメッセージを伝えるのは重要」としつつ「公平、公正の担保が社会の要請に堪えうるか」と疑問を投げかけていた。
福田副学長は記者会見で、高校の英語の授業が民間試験対策になる弊害があるとも指摘し、ガイドライン案の修正を求める考えを示した。
引用)毎日新聞 2018年3月10日
高大接続改革の意味
そもそも今回の改革の目的は、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜を通じて、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」という学力の3要素を、確実に育成・評価することであったはずです。そこで大学入学者選抜においては、学力の3要素を総合的・多面的に評価するように改革する方向にあります。
その中で、共通テストに記述式問題を導入したり、英語の4技能評価を組み入れたりを検討されてきたわけです。
しかし2020年度の入試の時点では、まだまだ道半ばというのが現実です。
『記述式問題の導入により、解答を選択肢の中から選ぶだけではなく、自らの力で考えをまとめたり、相手が理解できるよう根拠に基づいて論述したりする思考力・判断力・表現力を評価することができます。』というのが大きな狙いですが、ほとんどがマークシートの試験の一部に記述式問題を加えることで、本当に「評価」できるのかという疑問があります。
また英語の4技能評価については、共通テストではスピーキング評価の仕組みが作れないから、外部の民間試験を活用するという話になってしまいました。そもそもTOEFLのような仕組みを共通テストとして作って一本化できれば、そのまま進められたはずです。しかし複数の民間試験を採用する方向で審査が進められているのが現状です。
本来の改革の目的が置き去りにされたまま、共通テストへの記述式のちょこっと導入と、民間試験の導入にばかりフォーカスがあたり、まるでそれが入試改革の目玉であるかのように、受験産業は煽りだしているわけです。
一か月前の出来事
今回の一件には前触れがありました。
2月10日に開催された東京大学高大接続研究開発センター主催シンポジウム、「大学入学者選抜における英語試験のあり方をめぐって」において、各方面から批判や改善要望が出まくったそうです。
CEFRと各試験の得点対比表がありますが、どこまでそこに科学的な裏付けがあるのか、いたって疑問というのはその通りです。
英検2級とTOEICのある点数幅を比較して、目安にはなるかもしれないが、それぞれの受験者の結果を本当に評価できるのかというと、非常に疑問です。
興味がある方は、シンポジウムのサイトに資料がアップされているので、ぜひご覧ください。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/adm/koudai/sympo2018.02.10.html
そこで都立西高の校長先生が説明した中の、
【最大の問題 】
新制度で活用される民間の資格・検定内容が3月末まで明らかにないこと、
各大学が民間の資格・検定をどう活用するかが新年度にならなければ明かにならないこと
が大きな問題。
という部分が、民間試験における経済的な負担や地域格差などの問題以上に、最も大きな問題であると思います。
2020年度の受験生は、この4月から高校1年生として学習をスタートします。
それなのに、新制度でどのような民間試験を、どのように活用するかが、いまだに明らかにされていないのです。
高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体での改革のはずです。それなのに高校での学習内容を評価するべき入試で、どのような検定内容とするのかが明確になっていないというのは、本末転倒もいいところです。
東京大学が、このタイミングで決定を発表したのは、慎重かつ良識ある判断だったと思います。
4技能評価が後退することはないと、きちんと明言しているわけですし。
商業主義
「高校の英語の授業が民間試験対策になる弊害」を憂慮していますが、本当にそうだと思います。
『大学入試を有利に進めたい受験生必見』と銘打ったTOEIC対策本が出版されました。
出版社は確信犯的に売り出したのでしょうが、これはあんまりかと。
TOEICで扱うのは、ほぼビジネスの英会話。出てくる単語もそう。
普段の英会話としても、相手が病院で予約の話とか、相手がお店で商品の故障に対する修理の話とかで、これをこのまま大学の入試として評価するのはあり得ないと思います。
TOEICという試験自体が問題ではなく、その試験が評価しようとしている中身が、大学入試とは異なるということです。
大学入試で評価すべき英語力は、大学でのアカデミックな内容についていけるかどうかの英語力のはずで、いずれは学会で英語での発表もするための英語力だと思います。
まだTOEICが民間試験として採用されるかどうかの決定もないまま、このような本が出版されるのは、やはり商売だからでしょう。
受験生は不安に違いありません。一部の高校では、そうした生徒のために民間試験対策をするでしょう。
そもそもの改革の目的は、どこに行ってしまったのかということにもなりかねません。
総合的・多面的に評価するための課題
いっぽうで、本来の目的である総合的・多面的な評価に向けては、課題はたくさん残っています。
そもそも、一つの物差しを用いた公平・公正な評価では、おそらく総合的・多面的な評価とは相容れないでしょう。
ここはチャレンジだと思います。
しかし総合的・多面的な評価が行われるようになれば、大学の中にも多様性が生まれるはずです。
そして全国の大学の間においても、さまざまな多様性が生まれるはずです。
数年後、東京大学の英知を絞った個別試験がどのようなものになるのか、ぜひ期待しています。