物理基礎の有無で、出版業界の苦境を知る

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センター試験の受験者数

センター試験には、国公立大学だけでなく、私立大学志望も含めて、大学入試に挑む多くの高校生や高卒生が受験し、その数は毎年50万人になります。
センター試験の参考書や問題集は、ひとたび受験生の間で評判になれば、毎年数万部を売り上げることができる、ベストセラーとなりえます。

英語や国語では50万人、数学1Aで40万人、数学2Bで35万人といったように、英数国では一つの科目で多数の受験生を見込むことができます。
しかし理科や社会のように選択科目が存在する場合には、状況は違ってきます。

社会での選択科目

社会では、文系の受験生は二次試験で使用する科目を選ぶことになります。その多くは世界史B、日本史B、地理Bの中から選ぶでしょう。

東京大学では、世界史B、日本史B、地理B、倫理・政治経済から選ぶようになっているので、文系は二次試験で利用できる世界史B、日本史B、地理Bを選択するでしょうが、理系では倫理・政治経済を選択するケースもあると思われます。

早稲田大学の政治経済学部における共通テスト利用入試では、世界史B、日本史B、地理B、現代社会、倫理、政治経済、倫理・政治経済から1科目の選択なので、どれでも利用できるようです。

そうした結果、直近のセンター試験では、世界史B:9万人、日本史B:16万人、地理B:14万人で、現代社会:7万人、政治経済:5万人、倫理・政治経済:5万人といった受験者数になっています。

理科での選択科目

いっぽうの理科では、文系と理系では選択する系統が異なるという現実があります。
「基礎を付した科目」と呼ばれる、物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎。
「基礎を付していない科目」と呼ばれる発展的な、物理、化学、生物、地学。
基礎のついた科目では、各科目の基礎的な部分に絞って学習の対象となっています。

東京大学では、文系は「基礎を付した科目」である、物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎から2科目を選択します。(物理、化学、生物、地学から2科目も選択はできるのですが、基礎を2科目選択したとみなされるため、通常は選択するメリットはないと思います。)理系は「基礎を付していない科目」である、物理、化学、生物、地学から2科目を選択します。理系は、二次試験でも理科2科目を選択する必要があるので、それと同じ科目をセンター試験で選択していました。

私立大学の理工学部でセンター試験利用入試を行っているところでは、「基礎を付していない科目」である、物理、化学、生物、地学から2科目もしくは1科目を選択するところが多いようです。

このように、理系では物理、化学、生物、地学を、文系では物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎を選択していたのです。

そうした結果、直近のセンター試験では、
物理:15万人、化学:20万人、生物:6万人、地学:1.6千人
物理基礎:2万人、化学基礎:11万人、生物基礎:14万人、地学基礎:5万人
といった受験者数になっています。

理系では、化学の受験者数が最も多く、そこに物理が続き、少し差が開いて生物となっています。
これは理学部や工学部では、二次試験で物理と化学を指定されるケースが多いことが理由です。医学部や農学部などでは、生物を選択できるケースも多く、その場合には化学と生物を選択することが多くなります。このように、二次試験で求められる科目の影響を受けているのが理系です。

文系では物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎から選択されるのですが、生物基礎が最も多く、次いで化学基礎、差が開いて地学基礎、そして最も少ないのが物理基礎となります。
文系では二次試験を考える必要がないので、センター試験での得点のしやすさ、そのための勉強のしやすさ、で科目が選択されます。数学が苦手で文系を選択した受験生にとって、物理はとっつきにくい科目です。覚えることは少ないですが、抽象的な考え方を理解して、数式を解いていくことを求められるところは、数学に通じるものがあります。覚えることが多いものの、数式に苦しめられることのない生物基礎が一番選択されることもうなずけます。二次試験でも理科を必要とする理系では地学を選択する受験生がほとんどいないことと対照的に、センター試験だけで理科が必要な文系では地学基礎を選択する受験生が多いことも、文系ならではの傾向だと思います。
それでも、物理基礎を選択する受験生が2万人もいることは、数学や物理を苦にしない文系の受験生が、それなりに存在するのだと、あらためて知ることとなりました。

物理基礎の問題集がない!!

この物理基礎の2万人という微妙な人数が、実は出版業界の切実さを物語る事実を浮かび上がらせてきます。

前回のNoteで、共通テストでは過去問演習が出来ないことを取り上げました。
https://yourmomentoftruth.com/2020/09/17/post-918/

共通テスト初年度では、各社がオリジナルで作成する実戦模試などを活用する必要があります。
そこで以下の3つの問題集シリーズについて、社会と理科の各科目についての有無を整理してみました。

受験生が千人台の地学や世界史Aがないのは理解できるのですが、物理基礎でも見事に各社とも出版していないのです。
地学基礎は出版されているのに、物理基礎は出版されていません。
ここから出版業界の苦しさが見えてきます。

2万人の受験生がいて、その5人に一人が購入してくれるとして、売れる部数は4千部。
一冊1,000円ぐらいだとすると、売り上げは4百万円。
それで出版にかかるコストが回収できるのかといった計算になります。
もし10人に一人しか購入してくれないとすると、2千部しか売れません。
そのボーダーラインを下回っているのが、物理基礎ということになります。

5万人ぐらいの受験生がいれば、採算は取れる。でも2万人では、どうあがいても採算が取れない。
そのような判断を、出版社がしているのだと思います。

出版社の経営は、非常に苦しい状況に追い込まれています。
そうした中でも、なんとか受験生のために準備しようとしてくれていると思います。
それでも、この予想部数では無理。
それが物理基礎の問題集から見えてくる現実です。

なお、数学や物理が得意な文系の受験生には、物理基礎はおすすめです。
なんせ、覚えることは少なくても、高得点を狙えるというのは、地歴で覚えることの多い文系には助かります。

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