東大英語の入試問題を解いてみた

大学受験

この記事にたどり着いてくれたキミへ
キミは、今年の東大入試英語について調べている高校3年生でしょうか。
予備校や塾が分析するのとは違い、TOEICを受けているアラフィフのおっさんの感想文にしかすぎませんが、お付き合いいただければと思います。

せっかくなので

以前、東大が英語の民間試験を採点に使わないことについての記事を書きました。
私自身は、スピーキングの試験さえ確立できれば、民間試験を使う必然性をほとんど感じません。
それよりも、比較しようもない複数の民間試験を、出願要件として用いるのではなく、結果を点数として加えることは、そもそもがおかしいと思っています。
ですから、英語の民間試験の結果を採点に利用しないという判断が、さも「悪」であるかの論調には同意できません。
という意見を持っていますが、せっかくなので民間試験の一つであるTOEICを受験した人間として、ためしに今年の東大の入試問題を解いてみました。
全部解くのは大変なので、英語の1(A)問題、いわゆる要約問題です。

Rumours spread by two different but overlapping processes: popular confirmation and in-group momentum. The first occurs because each of us tends to rely on what others think and do.
・・中略・・
In-group momentum refers to the fact that when like-minded people get together, they often end up believing a more extreme version of what they thought before.
・・中略・・
What can be done to reduce the risk that these two processes will lead us to accept false rumours? The most obvious answer, and the standard one, involves the system of free expression: : people should be exposed to balanced information and to corrections from those who know the truth.
・・中略・・
People do not process information in a neutral way, and emotions often get in the way of truth.
・・中略・・
It can be extremely hard to change what people think, even by presenting them with facts.

要約問題として見ると

おそらく典型的な論理構成の文章だと思います。
①噂が広まるのに、popular confirmationとin-group momentumの2つのプロセスがある。
②popular confirmationとはどういうことかの説明。
③in-group momentumとはどういことかの説明。
④これら2つのプロセスのリスクを軽減する方法がある。
⑤しかし感情が妨げとなり、事実をもってしても、人の考えを変えるのは難しい。

この問題の肝となっている一つは、②と③の文意から、popular confirmationとin-group momentumをどう日本語に訳すかかと思います。もし私が解答していたら、「周りへの同調」と「同質集団内での考えの先鋭化」と訳していたかなと思います。

これを70~80字で自分が要約すると、こんな感じ。

周りへの同調と同質集団内での考えの先鋭化により噂は拡散するが、事実に基く中立的な情報と修正により防げる。しかし感情が妨げとなり、人の考えを変えるのは難しい。

Google翻訳で見ると

この問題のキーワードとなるpopular confirmationとin-group momentumをGoogleで翻訳してみると、こんな感じ。
popular confirmation: 人気の確認
in-group momentum: グループ内の勢い
さきほどの文章全体から読み解く意味と比べると、なんと表層的な。
単語の意味だけを辞書的に調べるのであれば、Googleで翻訳はある程度使えます。(複数の意味や用例がたくさん載っている辞書とは、まったく次元は違いますが。)
しかしこのように単語を組み合わせた表現では、おおかたのケースでピントがずれてきます。
これはなぜか?
人工知能(AI:artificial intelligence)がもっとも苦手とする「読解」が必要だからです。
筆者が自分の意見を表明する文章では、キーワードを提示して、そのキーワードが意味することを解説するというスタイルを多く取ります。その文章の全体を読むことで、読者は筆者の伝えようとする本質を理解します。
これがまさに読解なのですが、AIには出来ないのです。
そして東大が求めている力も、まさにここなのです。
書かれている文章なのか、音声として流れてくる話なのか、どちらでも構わないのですが、そこから読み解く、聞き取る力です。
さらには、そのボールを受け取って、自分としてはどのような意見を相手に伝えるかが、もう一つの力です。
文章にして書いて伝える力と、相手に話して伝える力ですが、前者については2018年で1(B) の(イ)として出題されたとのだと思います。後者に対しては、相手に話して伝えるスピーキングの問題として、形式がどうなるかは別としても、いずれ出題されてくるのだと思います。
AIの進化ばかりがニュースになりますが、本当に重要なことは人間の側の読解する力、理解する力なのです。
そのことを伝える最近の本です。

東大英語の入試問題は、この力を試そうとしているわけです。

Cass Sunsteinの文章として見ると

出典となったこの英文を書いたのは、Cass Sunstein(キャス・サンスティーン)というハーバード大学の先生です。
リチャード・セイラー教授と行動経済学の本を出版しています。

リチャード・セイラーと聞けば、ピンと来る人もいるかもしれません。
そう、2017年のノーベル経済学賞の受賞者ですから。
サンスティーン自身は法学者なのですが、人の行動についての深い洞察があります。
2000年代初頭に『Republic.com』(インターネットは民主主義の敵か)という本の中で、インターネットによりサイバーカスケードや集団分極化が進むと警鐘を鳴らしていました。
これらの言葉の意味するところに興味があるキミは、ぜひ調べてみてください。
その考えが、今回の入試問題の文章の根底に流れています。
東大の入試問題をきっかけに、そうした考えにも触れてほしい、そんな思いが伝わってくる要約問題でした。

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