東大国語の入試問題を解いてみた

大学受験

この記事にたどり着いてくれたキミへ
キミは、今年の東大入試国語について調べている高校生でしょうか。
予備校や塾の分析とは違いますが、アラフィフのおっさんによる読解に、しばしお付き合いいただければと思います。

2019年の現代文

2019年の国語第一問の出典は、中屋敷均氏の『科学と非科学のはざまで』でした。
昨年は野家啓一氏の『歴史を哲学する』で、人文科学の色が強い内容でしたが、今年はサイエンスエッセイで、自然科学の色が強い内容です。
熱力学の第二法則や分子結合といったことに触れており、分子運動のイメージが出来ているほうが理解しやすいですが、決して難しい内容を含むわけではありません。

問題文を鳥の目で見ると

この文章はまず、「言い換え」で捉えると分かりやすいでしょう。

「カオス」⇔「カオスの縁」⇔「カオスの対極にある状態」
「水蒸気」⇔「水」⇔「氷」
「無秩序な分子」⇔「生命」⇔「鉱物など化学的な反応性に乏しい物質」
「自分と違うものをつくる変異という動的な行為」⇔「正反対のベクトルがバランスするはざま」⇔「生命の持続を可能とする自己複製という静的な行為」
「科学で解明されていな闇のような領域が大きく広がる世界」⇔「多様性が花開く世界」⇔「病も事故も未知もない揺らぎのない世界」
「非科学」⇔「科学と非科学のはざま」⇔「科学」

といったように、両極の状態の間にある状態を主題として取り扱っています。

カオスの縁の特徴は

では、その両極の間にある状態の特徴は何か?
・反応性に富んだ物質が主
・偶発的な要素に反応し、次々に違う複雑なパターンとして生み出されてくる
・物理的な存在としての生命が、混沌から分子を取り入れ「形」をつくり生きている
・知的な存在としての人間が、「分からない世界」から「分かること」を増やし「形」をつくって生きている
といったところでしょう。

設問一は

「自然界ではある意味、例外的なものである」とは、どういうことかを説明させる問題です。
前述の言い換えにある三番目が、この設問のターゲットになっています。
自然界では、鉱物など科学的な反応性に乏しい物質しか秩序正しい形を長期間保つことができず、分子は常に無秩序の方向へと向かうが、生命は無秩序な分子から自分に必要な分子を取り入れ、秩序を与えた形を生み出していく点で特殊だということが、傍線部の後段で示されています。この部分をうまく解答欄に収まるようにまとめれば点数はもらえるでしょう。

設問二は

「何か複雑で動的な現象」とは、どういうことかを説明させる問題です。
前述の言い換えにある四番目が、この設問のターゲットになっています。
傍線部の前に、「様々な意味で生命は、」とあり、「様々な意味」に触れる必要がありそうです。
生命が、自己複製と変異という正反対の方向の間でバランスを取りながら、混沌から分子を取り入れ、偶発的な要素に反応して、次々に違う複雑なパターンとして形を生み出していく現象だということを、うまくまとめれば良いでしょう。

設問三は

「人類にもたらされる大きな福音」とは、どういうことかを説明させる問題です。
この文章には、福音が指す対象が二つあります。
『世界に新しい「形」が与えられることが福音なら、実は「分からないこと」が世界に存在することも、また福音ではないだろうか。』と後段にあります。傍線部は、『世界に新しい「形」が与えられる』という福音のほうを指しています。
科学が、混沌とした世界の秩序・仕組みを解明することで、きちんと予測し、正しい判断を下すことができるようになり、人類に大きな利益をもたらすということを、うまくまとめれば良いでしょう。

設問四は

「いろんな『形』、多様性が花開く世界」とは、どういうことかを、本文全体の趣旨を踏まえて説明させる問題です。
本文全体を通してみると、『物理的な存在としての生命』と『知的な存在としての人間』を対比させて解答する必要がありそうです。生命が、自己複製と変異を繰り返しながら異なる複雑なパターンを生み出していくように、知的存在としての人間が、科学によってすべてが解明された世界と、解明されていない非科学の世界のはざまで、様々な知性や決断をすることが許容され、その営みを喜びと感じることができる世界、だということ100~120字でまとめれば点数をもらえるでしょう。
私が解答するなら、こんな感じです。

生命が、自己複製と変異を繰り返して異なる複雑な形態を生み出すように、科学がすべてを解明した世界と、解明されていない非科学の世界のはざまで、知的存在である人間による様々な知性や決断が許容され、その営みを喜びと感じることができる世界。

ぜひ読んでほしい

この文章は、もともとは講談社のPR誌である『本』の連載からの出典です。
入試と時を同じくして、この連載をまとめた新書が発売されました。とても面白く、高校生でも理解できる内容だと思いますので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

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