ハードレンズの衰退
日本でのある調査によると、生産年齢人口の3割が裸眼、4割強がメガネ、3割弱がコンタクト(メガネ併用を含む)という状況だそうです。
しかしその3割のコンタクトレンズ装着人口の内訳は、大きく変化してきています。
1980年代に酸素透過性のハードが市場に出てきて、半数以上はハードの利用者になっていました。たしかに、当時の若者のソフト利用者は、レンズの手入れに暇がかかるのは嫌だが、激しいスポーツを行うために選んでいるという人と、ハードの違和感に耐えられないといった人が多かったように思います。酸素透過性のハードで大丈夫であれば、そちらが選ばれていました。
1990年代に入って、使い捨てコンタクトレンズが市場に出てきて、そこから徐々に様相が変わってきました。
2009年には、酸素透過性ハードが30%、1Dayが24%、2Weekが30%、1Monthが4.5%という分布で、半数以上が使い捨てコンタクトレンズという状況に逆転しています。
ですので、ハードの利用者というのは、1980年代から90年代前半にコンタクトレンズを使い始めた人たちが中心です。
今から25年~35年前に学生だった人たちと考えると、現在は40代から50代の人たちで、それ以下の人たちは使い捨てコンタクトレンズの世代と考えても良さそうです。
アラフィフの私も、まさにハードコンタクトレンズの世代で、かれこれ30年以上、利用し続けてきました。
さて、その40代から50代の人たちに何が起きているのか?
それは、加齢による老眼です。
これまでハードコンタクトレンズで近視をしのいできた人たちも、老眼が入ってくるとハードコンタクトレンズでは日常生活に支障が出てきます。そのためコンタクトレンズの利用をやめて、メガネの生活にシフトする人が多いそうで、それをコンタクトレンズ利用者の「ドロップアウト」と呼ぶそうです。
新規にハードコンタクトレンズを処方するケースは非常に少ないため、ハード人口は減ることはあっても、増えることはありません。そうなると、ハード人口はどんどんと減っていきます。
自分自身がそのことを痛感したのは、ハードの保存液などの特売が、ここ数年でめっきり減ってしまったことです。
おそらくですが、ハード人口が減るに従い、ハードの保存液の生産量も減っていったのだと思います。
そうなると供給過剰といったことも起きにくくなり、特売になりにくくなってしまったのでしょう。
私は、細かな字を読む必要がある時だけ、リーディンググラスという名の老眼鏡をコンタクトレンズの上からかけることで、コンタクトの利用を継続すると決めました。
しかし、ハードコンタクトレンズを取り巻く環境が、これからはますます悪くなることも考えられるため、アラフィフにして「使い捨てコンタクトレンズ」への転向をはかることにしました。
1Dayと2Weeksの選択
調査は違うのですが、2009年に酸素透過性ハードが30%、1Dayが24%、2Weekが30%だった分布も、近年は酸素透過性ハードが20%、1Dayが40%、2Weekが30%と、1Dayが主流になってきています。
使い捨てコンタクトレンズにする際に、1Dayとするか、2Weeksとするかは悩ましいところです。
そこでいくつか比較してみました。
まずはコスト。
1Dayは、1日あたり両目で140円。
2Weekは、1日あたり両目で43円。
ほぼ3倍の開きがあります。
1Dayは、洗浄や保存の心配がなく、面倒くさがりの人にはもってこいです。
また毎日コンタクトを使うわけではなく、必要のある日だけという人にも向いています。
スポーツ、特に水泳などでコンタクトをしたままゴーグルをつけて泳ぐような場合もです。ゴーグルをしていれば、コンタクトがプールの水に触れることは少ないにしても、ないわけではありません。その場合、塩素などを含んだ水をコンタクトが吸ってしまう可能性もあるので、一日で交換するにこしたことはありません。
最後に旅行。頻繁に旅行や出張をする人は、保存液を旅先を持っていき、毎日ホテルに帰ってから洗浄するといった手間が大変ということもあります。その点で1Dayであれば日数分を持参して、毎日新しいものを使っていけるので、便利なのです。
2Weekは、1Dayのメリットの逆です。
毎日コンタクトを使う人が、コスト重視で選ぶというのが主流になります。
シリコーンハイドロゲル
どの使い捨てコンタクトレンズを選ぶかについては、他にも検討余地があります。
その一つは素材です。
使い捨てコンタクトレンズのスペックを見る上では、『含水率』『酸素透過係数(Dk)』『酸素透過率(Dk/L)』という数値に着目します。
実際にコンタクトを使う上では、装用感なども重要ですが、非常に重要なスペックは『酸素透過率(Dk/L)』です。
角膜の細胞に酸素を送り込むことが大切で、十分な酸素が行き届かないと障害を引き起こしてしまいます。
酸素透過係数(Dk)は素材で決まってしまい、従来の「HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)」」と呼ばれる素材では、ありえないですが含水率100%とした場合の水の酸素透過係数(Dk)を超えられないという限界がありました。
それでも、含水率を可能な限り高くして酸素透過係数(Dk)を向上させ、レンズを可能な限り薄くして『酸素透過率(Dk/L)』を向上させる努力がなされてきたのです。
しかし含水率が高く、かつレンズを薄くしすぎると、乾燥しやすいというデメリットも生じるため、装用感に問題もありました。
そこで近年は「シリコーンハイドロゲル」と呼ばれる素材が注目されています。
シリコーンハイドロゲルでは、水の酸素透過係数(Dk)に縛られることなく、より高い酸素透過係数(Dk)を実現することができます。
そのため比較的低い含水率でも、高い酸素透過係数(Dk)を実現できる素材となっています。
2Weekではシリコーンハイドロゲルがあたり前となっていますが、1Dayではまだ途上といった感じです。
これからさらに製品ラインアップが充実していくものと思います。
トーリックとマルチフォーカル
通常の近視だけであれば気にしませんが、乱視の矯正も必要だと、少し悩んでしまいます。
以前は、ハードコンタクトレンズなら乱視の矯正が可能と言われ、ソフトではなくハードを選択した人もいると思います。
現在は、乱視用の使い捨てコンタクトレンズが出てきているので、そちらを使うことで対応ができるようになってきました。
「トーリック」と名前がついてる製品は、乱視用のコンタクトレンズです。
しかし先ほどのシリコーンハイドロゲル素材の1Day製品では、クーパービジョンの『マイデイ トーリック』しかありません。(2018年7月現在)
1Dayでは選択肢は少ないのですが、2Weekであればシリコーンハイドロゲル素材でも各社から製品が出ているので、その中から選んではどうでしょうか。
また40~50歳代で、老眼のためにコンタクトレンズをやめて、メガネに「ドロップアウト」してしまう人たちをターゲットにした遠近両用の製品が出てきています。「マルチフォーカル」という名前がついている製品です。
これからは1980年代から90年代にかけてコンタクトレンズを使い始めた世代が、老眼に直面するタイミングです。
この世代には第二次ベビーブーム世代も含まれおり、人口としては非常に多い世代でもあります。
その有望なマーケットを、企業は放っておくわけがありません。おそらくこれからは、製品ラインアップも充実して、価格もこなれてくることでしょう。
老眼になってコンタクトレンズからドロップアウトする前に、遠近両用コンタクトの選択肢も考えてみてではどうでしょうか。
私自身は、昔々に乱視と診断されていたので、遠近両用は無理だと思っていました。
しかし今回、使い捨てコンタクトレンズに切り替えるために眼科を受診したところ、乱視はないということでした。
まずは通常の使い捨てコンタクトレンズから開始しましたが、いずれは遠近両用の可能性も眼科で相談してみようと思います。
まずは眼科で処方箋を
一時期、コンタクトレンズ販売店が提携するお抱え眼科に、眼科以外の医師が大量にアルバイトしていることが問題となったことがあります。
コンタクトレンズは、使い方や手入れの方法を間違えれば、大切な目を傷めることにつながります。
まずは眼科専門医に診てもらえる眼科で、きちんと処方してもらうべきだと思います。
また使い始めてから3カ月に一回や半年に一回は、定期的に診察してもらい、目に問題が起きていないことを確認してから、処方箋をもらうようにしてはどうでしょうか。
外部で購入することを前提に、処方箋だけを出してくれる眼科も増えていますし。
(「当院ではコンタクトレンズ未経験者の処方箋のみの発行はいたしておりません。」とされている眼科が多いのも事実ですが。)
たしかに「処方箋なし」でコンタクトレンズを購入できる通販サイトもあります。
最初に処方されたコンタクトレンズのデータを控えておけば、同じコンタクトレンズを購入することができます。
コンタクトレンズが切れてしまったのに、眼科に行く時間がないような時には、そうしたサイトで購入するのもありかと思います。
しかし、半年に一回や年に一回は、必ず眼科で診察してもらって、問題がないことを確認した上で、処方箋を出してもらうほうが安心です。
コンタクトレンズは、目に直接触れるものです。
安全には安全を重ねて、大切な目を守りたいものです。