駿台とZ会の業務提携
駿台とZ会の業務提携が発表になりました。
http://www.sundai.ac.jp/press/2018/2018-0718-01.pdf
私たちの世代からすれば、東大を目指す高校生や浪人生の予備校は駿台、通信添削はZ会というのが、王道だったと思います。
予備校と通信添削なので、直接的に競合するわけではなく、併存可能な存在であったわけですが、東大を目指すハイレベル層の確保という意味ではライバルの存在であったと思います。
また教材で見ても、たとえば英単語帳であれば、駿台のシステム英単語とZ会の速読英単語といったように、単語帳の特徴は違えども、受験生から見たらどちらかを選ぶライバルの関係にあるわけです。
そんな古くからのライバルが、ここに来て手を組んだというのは、非常に興味深い出来事でした。
合従連衡
塾・予備校業界の合従連衡は、以前は頻繁に起きた結果、ここのところは落ち着いた様相を見せていました。
中学受験の世界から眺めると、
四谷大塚⇒東進(ナガセ)
SAPIX⇒代ゼミ
日能研⇒河合塾(提携)
といったように、中学受験の大手塾は、なんらかの形で大学受験予備校と繋がっているというのが、現在の姿です。
そんな中にあって、駿台というのは、孤高の姿を維持していたように思います。
しかし、そんな駿台も、関西の大手塾である浜学園と「駿台・浜学園」を設立して、関東の中学受験生確保に動いていました。
駿台単独としては中学部を持っており、そこでは中高一貫生と高校受験生の両方を抱えています。
そして高校受験プレコースとして、公立中学に進んで高校受験をする「小学生」のコースも持っています。
つまり、中学受験で私立中学を目指す層というのは単独ではターゲットにしておらず、高校受験をする層をターゲットにしています。
このように、徐々にではありますが、小学生や中学生をターゲットにした戦略を進めてきています。
Z会の戦略
いっぽうのZ会の戦略についてはどうでしょうか。
もともとの強みである通信教育については、幼児から社会人までを対象に、幅広い層に対してサービスを提供しています。
そして、あまり知られていないのですが、教室での教育も行っています。
たとえば首都圏の小学生向けであれば、国私立中学受験コースのZ会東大進学教室と、公立中高一貫校受検コースと難関高校受験コースの2コースを持つZ会進学教室を展開しています。
中学生向けでも、高校受験コースと中高一貫校生向けコースを用意しており、首都圏で14教室と少な目ではありますが、着実にビジネスを展開しているように見えます。
高校生(高卒生)向けでは、Z会進学教室とともに、学究社(ena)から大学受験部の一部を譲り受けたZ会enaも前身に含むZ会東大進学教室(以前はZ会東大マスターコース)を展開しています。
このように通信教育だけでなく、教室ビジネスでも教室数が少ないながらも、しっかりとしたビジネスを推進しています。
また塾業界においては、栄光を買収、市進に資本参加、学研と提携といったように、中学受験の御三家塾とは違うポジショニングで生徒を確保しようとしています。
栄光や市進は、難関中学受験も対応しているのですが、公立中高一貫校を目指す層や、公立中学から高校受験を目指す層への対応を強めている塾という認識を、私はしています。
こうした特徴を見ると、公立中高一貫や公立中学に通う生徒をターゲットに、どちらかというとボリュームゾーンを狙った戦略という感じを受けます。
たしかに、SAPIXや四谷大塚から開成や桜蔭に合格した最優秀層の生徒は、東進や代ゼミに通うというよりも、鉄緑会などの難関中高一貫生向けの塾に流れてしまうので、公立中高一貫や公立中学に通う生徒をターゲットにした戦略は、理に適っているのかもしれません。
駿台×Z会=?
こうして両社の戦略を見ると、公立中学から高校受験をしている層の取り込みは、シナジーを生みそうに思います。
どちらも教室数は少ないものの、小学生の段階から公立中学⇒高校受験を目指す層をターゲットに展開していることは重なります。
駿台が、お茶の水校・池袋校・(渋谷校)・西葛西校・自由が丘校・吉祥寺校・船橋校・津田沼校・海浜幕張校。(渋谷校は小学生コースはなし)
Z会が、 御茶ノ水教室・葛西教室・渋谷教室・新宿教室・祖師谷教室・池袋教室・大泉学園教室・三鷹教室・立川教室・調布教室・八王子教室・横浜教室・大宮教室・南浦和教室。
重なる地域もありますが、東側が多めの駿台と西側が多めZ会で、うまく住み分けられそうに思います。
今回の提携のプレスリリースには、
東大・京大入試実戦模試をはじめとする各種模擬試験・実力テストの共催、そのほか両者の強みを最大限活かし、難関大学を志望される中高生・高卒生を強力にバックアップするサービスを2019年度より展開してまいります。
とあるので、まずは大学受験での両社のシナジーを出していくものと思いますが、ゆくゆくは公立の小中学生でのシナジーを出していけるのではないでしょうか。
プレステージ模試の行方は?
しかし、気になることが一つあります。
「河合塾・Z会共催プレステージ」の今後です。
ハイレベルの模試では、Z会は河合塾と共催でプレステージ模試を実施しています。また東大、京大、阪大の即応オープンもしかりです。
プレスリリースでは、2019年度からZ会は駿台と共催するとしているので、河合塾との共催模試はなくなる、というか河合塾単独での開催に切り替わるということでしょうか。
高校で、プレステージ模試を組み入れている学校は、見直しを考える必要も出てくるかもしれません。
このあたりは、大きく変化していきそうですね。
高大接続改革を見据えて?
塾・予備校の提携やM&Aは、基本的には少子化を見越してというのが本筋だと思います。
しかし、駿台とZ会の業務提携は、高大接続改革が視野に入っているような気がします。
高大接続改革といっても、英語の4技能とかといった話ではなく、小中高での学び方が変わることを見据えてという意味です。
難関大学は、より思考力を求められる問題や、場合によっては論文形式の試験などに、徐々に変わっていく可能性が大きいと思います。都立中高一貫校が、個別試験問題だけの作成をあきらめ、共通問題と個別問題のハイブリッドに切り替えたように、思考力系の作問は、出題者に大きな負荷をかけることとなります。
予備校が、将来的に冠模試(各大学別の実戦模試)を作問していく上でも、当然のことながら負荷がかかっていくのではないでしょうか。
これまでの世界史の問題や生物の問題といった、ある意味で教科別に想像できる範囲での作問から、より複合的、融合的な問題へと切り替わっていくと、なにを持って実戦模試とするのかは、非常に難しくなるでしょう。
そんなところを、「駿台×Z会」の力で超えていこうということでしょうか。
今回の業務提携で触れている「ハイレベルかつ良質で、これまでにない革新的な学習サービス」がどのようなものになるのか、非常に楽しみです。