骨太の方針ってナニ?

骨太 カンガエル科

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この時期に必ず新聞で取り上げられる「骨太の方針」なるものをカンガエル上で、この記事が少しでも役に立てばと思います。

新聞各紙の論調から

ここ数週間、「骨太の方針」という文字が、新聞紙上で見かけるようになっていました。
各紙の社説から見出しを中心に、その論調を拾ってみました。

<毎日新聞 6月17日社説>

安倍政権の「骨太の方針」 借金つけ回しを放置した

 政府は、経済政策運営にあたっての「骨太の方針」を決めた。柱は、新しい財政健全化計画である。
 健全化をうたってはいるが、目標とする基礎的財政収支の黒字化は2025年度と従来より5年も先送りした。1000兆円超の借金に対する危機感がまるで欠けている。
 特に問題なのは、目先のお金を確保できれば将来につけを回しても構わないと言わんばかりの内容だ。
(後略)

出所:毎日新聞 2018年6月17日 社説

<日本経済新聞 6月16日社説>

骨太の名が泣く甘い経済財政改革

(前略)
 このままで本当に大丈夫なのか。15日の閣議で決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)からは、安倍晋三政権の強い危機感が伝わってこない。
 財政再建と成長強化の両立を目指すという骨太方針の方向は正しい。2つの目標を達成しなければ、日本経済を真の意味で再生することはできない。問題はその手段が物足りない点である。
 第1に財政健全化への踏み込みが甘い。国と地方の基礎的財政収支を黒字化する時期は2020年度から25年度に修正され、21年度に3つの指標で進捗状況を中間検証することになった
(後略)

出所:日本経済新聞 2018年6月16日 社説

<読売新聞 6月6日社説>

骨太方針案 財政健全化が踏み込み不足だ

 高齢化の進展に伴う社会保障費の膨張で、財政は一層の悪化が見込まれる。実効性のある歳出削減策や消費増税の円滑な実施を図り、健全化への道を着実に歩まねばならない。
 政府が「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案をまとめた。
 骨太方針案は、「2024年には歴史上初めて50歳以上の人口が5割を超える」と、高齢化に対する強い危機感を表明した。
(中略)
 方針案が、待ったなしの高齢化対策として、多様な取り組みを打ち出した点は評価できる。
 問題は、高齢化社会を乗り切るのに欠かせない財政健全化への踏み込みが足りないことだ。
(後略)

出所:読売新聞 2018年6月6日 社説

<産経新聞 6月6日社説>

財政健全化計画 黒字化への覚悟伝わらぬ

 安倍晋三政権はどこまで腰を据えて財政を立て直すつもりか。その覚悟が伝わってこない。
 経済財政諮問会議に示された「骨太方針」の原案にある、新たな経済・財政再生計画は、基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を5年先送りし、2025年度にすることなどを柱としている。
 だが、目標設定には甘さが目立ち、むしろ財政規律が緩む懸念が先に立つ。首相は財政再建と経済再生の両立を掲げてきた。それが果たされていない現実を、もっと重く受け止めるべきだ。
(後略)

出所:産経新聞 2018年6月6日 社説

<朝日新聞 5月30日社説>

財政再建計画 とても歯止めにならぬ

 政府の新しい財政再建計画が固まった。
 借金に頼らず毎年度の政策経費をまかなえるかを示す基礎的財政収支(PB)黒字化の時期は、従来の20年度から25年度に先送りする。一方で、国内総生産(GDP)と比べる三つの指標で、21年度の時点で再建の進み具合を検証するという。
 ところが、肝心の新たな指標が甘く、緩みがちな歳出への歯止めになりそうもない。実効性のある歳出抑制の仕組みが不可欠だ。来年度の予算編成に向け、議論をやり直すべきだ。
(中略)
 政府が6月に決める予定の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)には、この財政再建計画とともに、来秋の消費増税に備えた経済対策を19、20年度の当初予算に盛り込むことも明記されそうだ。経済の変動をならすために政策で柔軟に対応することは必要だろう。しかし、有効な歯止めを欠いたまま歳出増加の議論が先行するのは、いかにも危うい。
(後略)

出所:朝日新聞 2018年5月30日 社説

それぞれの新聞の立ち位置があり、政策への論調は違ってくるのが常です。
しかし今回の「骨太の方針」については、めずらしく各紙の論調がそろっているように感じるのは、私だけでしょうか。

そもそも骨太の方針とは?

「経済財政運営と改革の基本方針」というのが、骨太の方針の正式の名前です。
2001年の小泉内閣の時代に始まり、2009年まで続けられました。
その後、民主党政権となり、いったん途絶えましたが、2013年から安倍政権のもとで復活しています。
そして、2018年版は、以下で公開されています。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/2018_basicpolicies_ja.pdf

もともと、日本の国家予算をまとめるのは、大蔵省、現在の財務省が担っており、大きな影響力を与えていました。
官僚主導から総理主導の政策決定へと変えていくための仕組みとして、「経済財政諮問会議」が設置されたことが始まりです。
その会議の位置付けに対して、当時の宮澤喜一 財務大臣が、
「予算の詳細は我々財務省が担うので、この諮問会議では大所高所からの議論、つまり骨太な議論をして頂きたい。」
という主旨の発言をしたことが、骨太の方針の由来と言われています。
しかし小泉政権では、骨太の方針において大所高所だけでなく、より政策の中身に踏み込んで方針を出してきました。
そして、その政策に踏み込んだ方針をもとに各省庁に詳細を作成させて、実施状況の進捗を見ていくという、ビジネスの世界で言えば「PDCA」をまわしていくことになったのです。

政策を進めようとすると、それを進めるための予算が必要になります。
たとえば、文部科学省が高校の無償化を進めようとすれば、各家庭が負担していた学費を国が肩代わりするため、そのために必要な予算を手当てしなければなりません。
昔の進め方であれば、予算編成のタイミングで文部科学省から財務省に(政策に必要な)予算の申請を出すわけですが、最終的にその予算がつくかどうかは、財務省の側にコントロールがあったわけです。
しかし、現在の仕組みであれば、骨太の方針で「高校の無償化」が示されたなら、それに沿って文部科学省は政策の詳細を固め、財務省もそれに必要な予算を手当てすることが求められるわけです。
総理が議長をつとめる経済財政諮問会議において、政策の方針が「骨太の方針」として決められたら、各省庁はそれに従って政策の詳細検討や実施を進めなければならないのです。
これが「総理主導」の政策決定という意味です。

基本方針が持つべき2つの側面

民間企業でも同じなのですが、こうした基本方針が持つべき2つの側面というのがあります。
一つは、組織をプラスに転じるための施策の議論。
もう一つは、施策を推進するための「お金」をいかに捻出するかの議論。

組織をプラスに転じるための議論というのは、いろいろとあります。
たとえば成長戦略。
企業であれば、本業の事業が成熟しており、今後徐々に市場が小さくなることが見込まれている。だから、関連する新事業を育てて、新たな収益源となることを目指すといったものです。
生き残り戦略。
市場が小さくなる中で、このままの人員を抱えていたのではコスト競争力がなくなるので、ロボットやコンピュータによる自動化を進めて生き残ることを目指すといったものです。

こうした戦略には、たとえば新事業を育てるためにベンチャー企業を買収するとか、ロボットやコンピュータを購入するといったように、お金が必要になってきます。
そのお金をいかに捻出するかが重要になってくるのです。
民間の企業であれば、お金を借りるにも限度があるので、現在の事業の一部を他社に売却してお金に変えるとか、採算性が悪い事業から撤退してリストラを進めるといったことを考えなければならないのです。
しかし国家の場合には、国債などの形でとりあえずお金を用意することができてしまうのです。(国が借金を背負うことで)
そうして税金などとして国に入ってくるお金よりも多いお金を、いろいろな政策のために出すことを続けてきています。
少なくとも借金を増やすことはせずに、国に入ってくるお金と出ていくお金をバランスさせましょうというのが、基礎的財政収支(プライマリバランス)を黒字化するということです。
それは、すでに積み上がってしまった借金を返すということではないのです。
これ以上は借金を増やさないようにしますということです。
それを5年先送りして、2025年度にするということが、今回の「骨太の方針」で示されたわけです。
裏を返せば、将来にツケを回して、まだ借金体質を続けますと宣言したということです。

国から出ていくお金を削るというのは、厳しい側面があるのは確かです。
まず高齢者の医療費自己負担増などで国の予算を絞れば、選挙で高齢者からの票を失うことになるでしょう。
そうした政策投資を減らすことで、一部では景気に影響が出るかもしれません。
それでも、財政再建のためには必要なのです。
将来にツケを回すのではなく、現在の国民が痛みを分かち合い、将来世代のための社会を作っていくという決断は、国のトップにしかできません。

宮澤喜一 元首相(当時財務大臣)が、
「予算の詳細は我々財務省が担うので、この諮問会議では大所高所からの議論、つまり骨太な議論をして頂きたい。」
と言った真意は、そうした議論こそ総理主導で決めるべきだということではなかったのかと思うばかりです。

「これのどこが骨太なのか?」という論調で各紙がそろったのは、そうしたところを伝えたいのだと思います。

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